眠れぬ夜に『Orbital』

前書き

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 この記事は2009年5月12日に配信されたWiiウェア『Orbital』についての記事である。毎日ムキムキの趣旨とは大きく離れる内容だが、今更2年前の作品の話を公開する場所も他にないので、暇つぶしとしてここに公開することとなった。場違いなゲームコラムとでも認識してもらえれば幸いである。

『Orbital』との二回の出会い

 果たして君はビデオゲームに何を求めるのか? 銃弾が降り注ぐ戦場に向かい、血を滾らせ目を爛々と輝かせるためか。それとも、現実の喧騒から離れ、牧歌的で小さな世界に心を落ち着かせに行くのか。

 答えは人によって様々であろうが、僕は大抵、興奮するためにゲームの世界へと赴く。刺激的な世界で鼻息を荒くしたり、緊張する物語で心臓を高鳴らせたり、あるいはギリギリのアクションを体験して手に汗を握る。そんなわけで、割と退屈なことが多いゲームというのは好きでない。

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 よって、Wii Wareで『Orbital』を買って遊んだ時はかなり退屈でつまらなかった。このゲームは宇宙空間で惑星を操作し、どんどん大きくしていくという単純なゲームなのだが、動きがとにかく緩慢なのだ。星が持つ重力によってゆらりゆらりと左右に動き、時にはぶつからないよう大きな星の衛星になったり、あるいは機を待つためにノンビリと宇宙空間を漂い続ける……。ああ、退屈だった。

 僕は一時間もこのゲームを遊べずに、ほったらかしにしてしまった。そしてそのまま遊ばれずに時が経つ。しかしある時ふと、このゲームが目に入った。その時は、買ってから約二年後。眠れぬ夜に、何気なくWiiを起動したことから再び始まったのであった。

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緩慢も時には適度な刺激となる

 さて、まずはこのゲームを簡単に説明しておこう。『Orbital』はWiiで配信されているダウンロード専用ソフトであり、GBAで展開していたbit Generationsの後継シリーズであるArt Styleシリーズの一作だ。このシリーズはゲームの原点を目指しているようで、遊びやすい単純な内容となっている。

 ルールは簡単。プレイヤーはAボタンとBボタンのみを使用し、宇宙で惑星を操作し、自分より小さな惑星を吸収して大きくなったり、あるいは小さな惑星を衛星にし、最終的にゴールとなる惑星を衛星にすればステージクリアとなる。

 惑星を移動させるには重力が肝となり、近くの惑星に引き寄せられる重力と、離れる反重力を使い分けていく必要がある。このため、移動は必然的にゆったりとしたものになる上、思い通りに動かすには訓練が必要となる。

○ Art Styleシリーズ:ORBITALについて - 任天堂ホームページ
http://www.nintendo.co.jp/wii/wiiware/artstyle/wobj/

 前述のように、これが退屈だった。宇宙空間を漂う惑星を見ても興奮などしないし、重力操作もお世辞にも親切ではなく、思い通りに動かせず不満に思うばかり。残念なことに、これが面白いといえなかったのだ。

 だが、違う機会に出会った時、『Orbital』はそれこそ星のように輝いてみえた。月も見えない闇夜の日、眠れない上に何もすることはなく、辺りも静まり返った真夜中。限定条件下で、このゲームはたおやかな優しい刺激をくれたのだった。

孤独と連帯を描いている作品

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 『Orbital』はそれこそ劇的な内容こそないが、心地よさをたくさん与えてくれる。操作はAボタンとBボタンだけ。移動はかなり先を予測して動かさねばならないので、ハラハラドキドキすることもほとんどない。ステージは宇宙空間なので、派手さがあっても予想範囲内だ。とはいえ、ステージごとに差異はきちんと作られており、退屈なわけではない。

 時に大きな星の衛星となり重力に身を任せたり、あるいは自分より小さな惑星を衛星にしてゲームを進めていく。最終的には、求めているゴール惑星を衛星とするのだ。つまり、惑星との関係性で宇宙を漂うのである。

 特にこのゲームで素晴らしいのはBGMである。自分の周囲に衛星をつけると点数が増える上に、BGMが次第に賑やかさを増す。最初こそ静かなものだったというのに、だんだんと華やかになっていくのだ。一人寂しい宇宙で、仲間が出来たような錯覚に陥る。おまけにこの音楽、うまく操作したプレイヤーを褒めているかのようだ。

 また、隠し惑星である月を衛星にすると、今度はかなり落ち着いたBGMとなる。惑星だらけで騒がしかった音が唐突に穏やかになってしまい、はたと孤独感が湧き出てくる。傍にたくさんの衛星があったとしても、彼らとは重力で繋がっているだけなのだ。実際の距離はどれだけ遠いことか。

 そう、この『Orbital』という作品は、孤独と連帯を描いていると言いきっても良い。宇宙の真っ暗で何も見えない孤独感。重力と反重力によって引き寄せ・離れる二つの存在。そして、それこそ衛星のように、付かず離れずの心地よい距離感が作品の中に溢れている。一方で、ふとした瞬間に静まり返ったり離れてしまい、嫌でも自分がひとつの存在であることを思い知らされることすらある。

 だからこそ、このゲームは真夜中に一人でやらねばならない。することもない時に部屋に一人でぼんやりと、孤独を噛み締めつつ、宇宙を漂う惑星に自分の心を乗せて、寂しさと弱い賑わいをしみじみと味わう。時に近づき時に離れていく惑星たちには、単純且つ深甚なる社会が存在する。

 そして、惑星たちが関係によって動き続けることや、衛星がどれだけいようとも実質的に孤独である姿は、人間そのものを表しているといっても間違いないだろう。我々もまた、関係を求め宇宙を漂うひとつの存在なのかもしれない。そうやって物思いに耽る瞬間、このゲームは詩的・哲学的なものにすらなる。

 そのため、このゲームは昼間にやってもまったく面白くない。明るい昼間に星の光が届かないように、日中において『Orbital』は刺激と成り得ないのだ。同時に、複雑なゲームモードも極端なボリュームもハイスコアもオンラインプレイも、この作品にはいらないのである。必要なのは、自分ひとりと静かな時間だ。

 眠れぬ夜にひとり『Orbital』。輝く時こそ限定的だが、それはきっと美しい。
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