無数の人を楽しませる最高峰FPS・アドベンチャーは、ひとりのことだけを考えてはいない 『バイオショック インフィニット』 レビュー

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立派すぎる作品なのは間違いない『バイオショック インフィニット』

 『バイオショック インフィニット』(『Bioshock Infinite』)は、2013年4月25日に発売されたFPS(一人称視点シューティング)形式のアクション・アドベンチャー。開発はIrrational Games。

 「バイオショック」シリーズの最新作である本作は、空中都市コロンビアが舞台となる。主人公のブッカー・デュイットはエリザベスという少女を奪うため、単身その都市へ乗り込む。しかし、預言者であるカムストックが立ちはだかり、更にはコロンビアと自身に隠された秘密を知ることとなる。

 ゲーム内容の詳細については以下の記事を参照されたし。

○ 美しき空中都市コロンビアで、少女と行く血塗られた贖罪の道 『バイオショック インフィニット』
http://hakotossdm.blog42.fc2.com/blog-entry-1606.html

コロンビアはあまりにも立派で、エリザベスはただのNPCでなく、待ち受けるのは大きな秘密

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 本作は「バイオショック」シリーズではあるものの、今までの舞台である薄暗い海中都市ラプチャーを離れている。また、空中都市であるコロンビアは実に明るくて美しいように、他の要素も楽しげな雰囲気がある。特に、行動を共にするエリザベスという少女が愛嬌を振りまいてくれるのだ。

 ここまで見ると本作がかなり様変わりしているように思えてしまうかもしれない。しかし、表面は明るくとも一瞬で血の臭いがする薄暗い場面を見せてくれるし、『バイオショック』が色々な意味でビッグ・ダディとリトル・シスターの物語であったように、本作もまたその関係を題材にしたシリーズ作であることは間違いない。もっとも、過去作をプレイしていなくとも問題はないが。

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 それにしても、本作は2013年における最高峰のビデオゲームだと断言してもいいほどに立派だ。空中都市コロンビアは、大作の力と情熱の力によって信じがたいほどに作りこまれているし、エリザベスはただついてくるNPCではなく、プレイヤーよりも表情豊かで優秀かもしれない。とにかく、出来を褒め始めたらキリがないのである。

 そして何より、最重要である物語も申し分ないだろう。序盤こそ「主人公のブッカーが預言者のカムストックと対立し、エリザベスを奪い取る」という単純明快で退屈に感じるかもしれない構造だが、エリザベスの秘密、そしてブッカー自身に隠された秘密を知る時、目を見開かずにはいられないはずだ。

無数の扉は無数の人のためにある

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 さて、こうしてべた褒めしておいてなんだが、『バイオショック インフィニット』には足りないものがあると感じている。いや、正確に言えば、本作は大衆向けになっているのだろう。あるいはそうなってしまったのかもしれないが、それはさておき。して足りないものが何かといえば、シリーズ初代『バイオショック』にあったものがないのだ。

 そもそも、『バイオショック』は恐ろしいほどの名作で、まさしく巧妙としか言いようのない作りだった。物語の核心自体があざやかなだけでなく、そのことがビデオゲームに対する批判的な作品のテーマでもあり、そのテーマが主人公だけでなくプレイヤーにも大きな意味を持つため、主人公とプレイヤーをほぼ同格にする上に、新鮮な要素であった。要は、物語の虜になった瞬間、現実のプレイヤーすら作品内に引きずり込まれるかのような素晴らしい仕掛けがあったのだ。

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 では『バイオショック インフィニット』においてはどうかといえば、そもそも作品のテーマというものはほぼ感じ取れず、新鮮な要素はあれどそれは独立しているし、物語も巧妙な伏線が張られているが、それは最後の最後になると、プレイヤーの首を絞めて窒息させるかのように驚かせて喜ばせるためだけにあるとしか思えない。

 いや、それは悪いことではないのだ。そもそも『バイオショック』のテーマとでもいうべきものは、場合によってはまったく通じない話であったはずだ。そう考えれば、『バイオショック インフィニット』のように、そういった要素を省いてひたすらプレイヤーを楽しませるかのような作り、しかもそれを最高峰の出来で体験させるというのは、ある意味で完璧なのだ。

 要は、『バイオショック』における充実したトリックが『バイオショック インフィニット』には欠けているわけである。そして、それを求めるのは酷なのかもしれないし、欠けていても作品として落ち度があるというわけでもない。もっとも、一度味わったものを忘れるのはなかなか難しいわけだが。

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 『バイオショック インフィニット』が、無数の人たちに素晴らしい体験を与えてくれる作品であることは間違いない。ただ、それはあまりにも対象が大規模すぎて、ここにいるひとりの存在が(あるいは、その存在にとって)どこか希薄に感じられてしまうこともあるのだ。
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